比良・丹波山地の渓谷の水を集め、ゆったりと琵琶湖に注ぐ安曇川。その両岸にひらける安曇川町は、山と肥沃な沖積平野、そして、琵琶湖周辺の地域があり、そこから産出される食べ物が多様にあります。地域に生産される食材と、若狭や敦賀湾から届けられる日本海の産物などが加わり、長い歴史の中に育てられ親しまれて来た昔ながらの「ふるさとの料理」がありました。
文明の発達により、世界中の珍しい食材や料理を楽しめる今日の高島市です。私たちの食の形は大きく変わり、昔ながらの「ふるさと料理」は、いったん姿を消したかのように思われました。
安曇川町の民俗学者でおられた橋本鉄男先生は「この風土に育った食事が忘れられようとしているが消してはいけない。伝えられるのは、その料理と味を知っている君たちだ」と警鐘を鳴らされたのは、今から30年前の事でした。家族の健康・子どもの成長を願う家庭の料理、祭りや寄り事に心を込めて作る季節折々のおもてなし料理に、生きてきた人々の暮らしが見え、また、食べた人の心に料理が刻まれている「ふるさと料理」の大切さを教えて頂きました。豊かになったはずの食事は、体に良いばかりでなく、そのあり方は生活習慣病の原因の一部となり、健康のために何を食べれば良いか迷う今日の食事です。その中で、改めて見直されているのが、ふるさとの料理です。新鮮な季節野菜や山菜を使う料理、乾燥や塩漬けなどに保存加工し、必要な時に戻して作る料理には、私たちが、取り戻したい健康へのヒントがあります。
地産地消は、エコと地域発展の面からも取り組みたいことです。郷土料理伝承の会では、畑の野菜を使い、山菜を採り、琵琶湖の魚など身近な食材をいかして調理した昔の人の知恵を学びたい、伝えたいという思いのもとに研究を重ね、若い時に覚えた味を再現し、又、子ども達に好まれる味にと工夫を重ねています。
掲載されている料理は、会員それぞれの受け継いできたふるさと料理です。「作ってみよう滋賀の味」(滋賀の食事研究会著)を参考に、安曇川町独自の食文化を追求してきました。このような勉強会に参加できる機会を得られ感謝しております。会の更なる発展を願い、地域に育った料理をたくさんの人に、知っていただきたいと思います。
郷土料理研究家 高橋静子